藤原京子 個展「The Edge」トークイベント

藤原京子 個展「The Edge」トークイベント

ART FACTORY城南島では、5/23に藤原京子 個展「The Edge」のトークイベントを開催。美術史家・美術評論家の水沢勉氏をゲストに迎え、藤原京子さんと対談いただきました。

■ゲスト:水沢 勉(みずさわ つとむ)
美術史家・美術評論家
1952年横浜生まれ。1976年慶応義塾大学美学美術史学科卒業。
1978年同大学院修士課程修了後、神奈川県立近代美術館に学芸員として勤務。
2008年横浜トリエンナーレ2008「タイムクレヴァス」総合ディレクター。
2011年より2024年まで神奈川県立近代美術館館長。
単著に『この終わりのときにも 世紀末美術と現代』思潮社、1989年、『エゴン・シーレ まなざしの痛み』東京美術、2023年など。

■本展アーティスト:藤原 京子(ふじわら きょうこ)
1966年東京都生まれ。91年東京造形大学造形学部デザイン学科研究過程修了。
2016年文化庁新進芸術家海外研修制度(ブルガリア)。
主な個展に「the edge」(EARTH+ GALLERY、東京、2024)、「the edge」(ATELIER・K ART SPACE)、「Arcadia」(岩崎ミュージアム、横浜、2018)など。ドイツ、イタリア、アイスランド、アメリカなど8カ国のアーティスト・イン・レジデンス、展覧会に参加。
「Arte Laguna Prize 」ファイナリスト(Arsenale Nord、ヴェネチア、イタリア、2019 )。

〈藤原〉本日はありがとうございます。藤原京子と申します。よろしくお願いします。
〈水沢〉こんにちは。水沢勉と申します。私自身は2年前まで神奈川県立近代美術館の館長をしてまして、現在はフリーの美術史、あるいは美術評論に関わっています。
〈藤原〉お忙しい中ありがとうございます。

〈水沢〉藤原さんはここを仕事の場にしたのはいつでした?
〈藤原〉一昨年の夏からこちらのスタジオで制作をさせていただいています。
〈水沢〉この場所は展示に使われたりすることは知っていたんだけど、藤原さんがいるっていうことで(以前に)訪ねて。その時に僕自身の連載で藤原さんのことを書きたくて。
〈藤原〉ありがとうございます。
〈水沢〉ご本人に会って、制作している場所も知りたかったし。
〈藤原〉それが2024年の11月。
〈水沢〉 この場所に来た時の思い出はすごく強くて、もともとは倉庫だと思うんですけど、こういう空間にアーティストのレジデンスもあって、作品を発表し、これだけのインスタレーションで皆さんに作品を見てもらえる。そういう環境だってことを2年前に知りましたので、ここで個展をできるっていうのを聞いて、すごく期待したんですよ。
〈藤原〉ありがとうございます。

環境と対話する作品

〈水沢〉どういう展示ができるんだろうっていうので、ここの場所のこともすごく気になっていたので展覧会を見に来たりして。この場所の展示はすごく充実していて、興味深いグループ展や個展が開かれている。これだけの規模の個展は(ART FACTORY城南島にとって)初めてなの?
〈藤原〉この展示はART FACTORY城南島様が企画をしてくださいまして、ここに滞在して制作している作家の方が、全員ではないんですけど、タイミングがあった方が1ヶ月個展をするっていうシリーズで、私は7人目になります。
〈水沢〉そういうことなんですね。この空間はもともとは展示空間ではない倉庫だと思うんですけど、都会のど真ん中にある空間とは違う。今回の展示は完全にカーテンを閉めちゃっているので、外光が入っていないんですね。だからいつもの展示とちょっと雰囲気が違うかと思います。静かな光の環境になっていて、光を完全にコントロールして、藤原さんの作品にふさわしい照明ができている。ここまで静かに展示できたっていうのは(過去に)そんなにないんじゃないかなと推測します。
〈藤原〉そうです。ないですね。
〈水沢〉この建物の(もともとの)目的は倉庫ですから、そこに機械が仕掛けてあったり。
〈藤原〉クレーンですね。しかも現役で使われていて。
〈水沢〉じゃ、これ(会場奥の作品)もクレーンで吊りあげたの? 
〈藤原〉あれは吊りあげてはないんですけど、(クレーンは)現役で使われています。
〈水沢〉機能はしているんですね。美術館にああいうものが見える場所っていうのは、基本はないわけです。だからこの場所の特性もちゃんと残っていて、しかも今のお話だとまだ生きている。そういう場所にこういう作品が置かれている。環境と対話をする作品になっているんですね。

〈水沢〉藤原さんの作品は、一番奥の作品が本当に素晴らしい。傑作中の傑作だと思っているんです。今回の展示の主役の一つですね。ここの会場に入ってきたら、あれが一番沁みてくるでしょう。立体物として360度見る体験ができないといけないから、あの位置に吊るしてあるんですよね?
〈藤原〉はい。
〈水沢〉今回はこの場所の特性と藤原京子さんの特性がどんな対話をするのかがすごく気になった。だから展示(搬入)の中盤ぐらいに来て、どういう風に置くとここの環境で一番興味深い対話が生まれるかっていう話をしたんですね。この中で一番古いのはあれ?(一番奥の作品)
〈藤原〉この中で一番古いのはあちらのレリーフ。2020年に横浜で発表した作品です。
〈水沢〉一番奥の吊り下がっている作品は何年?
〈藤原〉あれは一昨年。シャンデリアのシリーズで、同じように見えるんですけれども、実はいくつも作っておりまして。(一番奥の作品は)2年前に木場で展示するために作った作品です。
〈水沢〉そうか。そうするとやっぱり木場で展示するときは、木場の空間に合う寸法とかを考えた上でシャンデリアのシリーズを新たに作ったっていう感じですね。
〈藤原〉そうですね。寸法は自分の中で一番いい形というのが決まっているんです。今回はステンレスのミラー仕上げという素材を使っているんですけれども、一番初めに作ったのは鉄だったんですね。自分がとても鉄にはまっている時でした。
〈水沢〉それは中之条(の展示)?
〈藤原〉はい。2015年の中之条です。ヴェネチアで展示をしたものもサイズは同じなんですけれども、郵送の関係でアルミにして。
〈水沢〉中之条の時は鉄で、仕上げは鉄のなんという状態?
〈藤原〉黒皮です。
〈水沢〉黒皮の状態で鋳造されて仕上がった状態?
〈藤原〉はい。それにグラインダーをかけて、ちょっと表情をつけて。
〈水沢〉それは中之条の酒屋さん(旧廣盛酒造、中之条)の倉庫の中に展示されていたんですね。小さな倉庫の中にあの一点。
〈藤原〉そうですね。一点だけ。
〈水沢〉後ろの壁に鉄のフェンスのインスタレーションがあって、照明ももうちょっと低かったかな?
〈藤原〉そうです。 一灯だけ。

その空間に沿うように作品が絶えず変化していく

〈水沢〉今回は(照明を)上から落として、向こう側の壁にも少し影が出るようにしている。
置かれた場所によって、同じような構造で、でも中之条では鉄で、ヴェネチアではアルミニウムで、ここではステンレス。素材は変わっているんですね。だから見るたびに何かが違うのですね。
いわゆる彫刻家っていうと、作った素材を移動させて、そのまた環境の中にふさわしい照明とか置き場所とかをもちろん考えるけど。
藤原さんの場合は、根本的にその空間に沿うように作品が絶えず変化していく。見るたびに何か印象が違う。
人間の記憶って、鉄とアルミニウムとステンレスを(それぞれ)あれはいつだったって、そこまではなかなか覚えられないですよね。でもその中に浸っている感覚だけは残るんだよね。不思議ですよね。優れた彫刻はそういう性格を持っていると思うんですよ。
僕は神奈川にいて、1991年からカマキンと呼ばれているあの建物(神奈川県立近代美術館鎌倉館)の中庭に置かれていたイサム・ノグチの「こけし(※1)」っていう石彫刻を毎日見るわけです。そうするとイサムというのは非常に優れた彫刻家だと僕は思うんだけど、日毎に表情が変わるんですよね。主観の方にあるのかもしれませんが、それを大好きだと思って見ていると、毎日違う表情を感じますよね。それは自分が飼っているペットだってそうだし、庭にやってくる鳥だってそうだし、なんか違う表情を感じるじゃない。だからいい彫刻っていうのはそういうのを感じるんですよ。でも、そういう風な表情を感じてもらえない彫刻ってね、ものすごく寂しそうになってくんだよね。ふふふ(笑)。そう思わない?
〈藤原〉「こけし」はお天気のいい日は微笑んでるなっていう風に思います。
〈水沢〉そうだね。天気がいいと目のところの影がね。右側の女の子は、なんかニコニコしてるんだっていうのがね。
〈藤原〉晴れていると感じます。
〈水沢〉晴れているとはっきりわかりますよね。曇っていると表情がそれほどはっきりしなくなるかもしれない。藤原さんもこういう環境空間との対話性をいつも持ってると僕は思ってるんですね。
〈藤原〉ありがとうございます。
〈水沢〉その一つの要因はガラスを使っていることも大きいかなって思うんですけど、やっぱりガラスを使うのも中之条から?
〈藤原〉そうですね。2013年の中之条で初めてガラスの吊り橋というのを作った時からです。
〈水沢〉もっと大きな倉庫でしたかね?
〈藤原〉同じぐらいかもしれない。15mのガラスの吊り橋を作ったんです。
〈水沢〉ここは15メートル?(スタッフによる回答:13mくらい)中之条の酒屋さんの倉庫の幅はここの半分ぐらい?
〈藤原〉そうですね。幅は半分位でした。
〈水沢〉ここはゆったりしてるので、作品の置かれているゆとりというか、今までの展示で一番落ち着いてるかな。
〈藤原〉そうですね。すごく落ち着いていると思います。あとここに自分のアトリエがありまして、落ち着いて制作・インストールできたというのもすごくあります。いつも大きいものを時間内に作らなくては、仕上げなくちゃいけなくて、一人でやっているので、追い詰められて作っていることがすごく多いんですけれども、今回は本当にありがたいことに落ち着いて作れました。

※1:神奈川県立近代美術館 鎌倉館 2016年閉館。同年の夏、葉山館に「こけし」を移設。

〈水沢〉裏側(トーク場所の背面)にも小品があるんですね。ご覧になってない人、それもぜひ見てもらうといいと思うんですけど。もちろん広い空間の代表作の大きなゆとりのあるインスタレーションもすごく大事ですけど、個別の小さな作品の個性、小さい部屋のテーブルの上に置いてあるガラス作品は、細部、割れている部分などはもっと感じるわけだよね。ガラスの加工の仕方が 2つあって、割ったガラスの輪郭と綺麗に切ったガラスがあるわけだよね。
それともう一つ、ガラスの輪になった形の作品があって、それは割れているんじゃなくて、とろけているように見えるよね。
〈藤原〉そうですね。アメ細工のようにガラスをドロドロに溶かして。
〈水沢〉そういう表情の違いは、隣の空間(小さい空間)ぐらいでないと、逆に人間の感覚は集中できないかもしれないね。奥の対比も非常にうまくいったんじゃないでしょうか。
〈藤原〉個展はどういう風な展示をするか、位置の細かいところはやっぱりやってみないとわからないっていうのはあったんですけれども、こちらの個展が決まったのが去年の7月ぐらいで、約1年かけて自分のスタジオでずっとプランを醸成できました。表にある作品も裏の作品も含めて、ずっとずっと考えていました。
〈水沢〉同じモチーフというか、同じ形態のものがヴェネチア(の展覧会)に並んでいるんですね。
ヴェネチアは車も1台も入ってこられない、不思議な港町ですよね。旧市街は赤レンガの建物で、15,6世紀ぐらい。
〈藤原〉そうですね。500年前くらいです。
〈水沢〉そういう場所に作品が並んだのは?
〈藤原〉2019年。
〈水沢〉2019年。7年前、ヴェネチアのなんて言ったらいいの?
〈藤原〉造船工場(Arsenale Nord、ヴェネチア)、昔のドックですね。
〈水沢〉本当に古いドッグ。16世紀ぐらいですよね?
〈藤原〉はい。本当に素晴らしい、すごいかっこいい場所で。
〈水沢〉そんな場所は近代化した都市にはありえないわけですよ。ヴェネチアは近代化してないから、不思議な場所ですよね。そういう場所に(本展規模の)作品が展示できるとすると、個人の住宅は無理で、やっぱり倉庫とか工場とか、そういう機能を持っているところじゃないと並べられなかったわけです。さっきの説明ではステンレスではないバージョンが並べられたと。
〈藤原〉そうですね。アルミのバージョンで。
〈水沢〉ヴェネチアの何月でした?
〈藤原〉3月かな。
〈水沢〉3月はもう日本とは全然違う光でしたよね。
〈藤原〉そうですね。ちょうど季節の変わり目で、着いた日に大雨が降って、ヴェネチアに滞在している中で一番綺麗な夕焼けでした。その後、どんどん光が明るくなっていく感じで。日本とは光が全然違うなって着いた時に思いました。
〈水沢〉ヴェネチアは真冬に行くと光が穏やかになって雰囲気があるんですけどね。観光客は少なくなるし、ヴェネチアの晩秋っていうかな、秋の終わりぐらいから冬にかけてはいい時期です。でもその時期ではなかったですよね?春?
〈藤原〉そうですね。ちょうどその年にヴェネチアビエンナーレが 5月ぐらいから始まったと思うんですけど、その始まる前の時期ですね。
〈水沢〉そうですか。あの作品(シャンデリア)はヴェネチアにあった時とは全く違うんでしょう?
〈藤原〉そうですね。外光が結構入る、上に天窓がある建物だったので、だいぶ違う...あ、今その時に一緒に展示をした絵画の作家さんがいらしてます。絵画の人はいいなと思いました、インストールが(笑)。
〈水沢〉作品をインストールするっていうのはすごく大変で、おそらく今回も時間はかかりましたよね?
〈藤原〉そうですね。ガラスなので急げないっていうのがありまして、慌てて設置ができない。どうしても一定の時間がかかるので、チコチコと。奥の(シャンデリアの)作品は約250枚、ガラスがついているんです。絶対に一定の時間はかかるので、チコチコと一人でやっていくっていう感じですね。こっちの方(入口正面のシャンデリア)は半分ぐらいで、100枚ちょっとなのでそんなに時間かからないんですけれども、黒なので、(パーツの)場所は全部決めていても形が白バッグで(はっきり)出てしまうので、だいぶ調整をしたんです。 
〈水沢〉形として調整していく?
〈藤原〉そうですね。ガラスの位置を調整したり、一部をカットし直したりとか、整えていくっていう感じですかね。

〈水沢〉黒いガラスを使うようなったのは最初から?
〈藤原〉黒いガラスを使うようになったのは、4年ぐらい前かと思うんですけれども。2人展をやる機会が木場(EARTH+ GALLERY、木場)でありまして、その時に黒縛りの展示をしたいねって、もう一人の作家さんと。その時に黒いシャンデリア作ろうと思って作ったのが、2023年ですね。その時に黒いのを作って、その翌年に(同ギャラリーの)個展であちら(奥のシャンデリア)を2024年に展示しました。
〈水沢〉屏風的な作品は、あれも黒っぽいガラスですよね。
〈藤原〉そうですね。あれはグレーのガラスです。黒のシャンデリアとは違う、もうちょっと薄いグレーのガラスです。

〈水沢〉(壁に展示された作品を指して)あれも黒いガラス?
〈藤原〉あれは透明のガラスなんですけれども、色が変わって見えるのは、ガラスの後ろに金属の板がありまして、それを塗っているんですね。光沢のある塗料を塗装しています。それとガラスをカットした小口のところが交わってああいう色に見えるっていう。
〈水沢〉わかりました。じゃあ、下から浮かんでくる塗装を施した金属の基調が浮かび上がっているのね?
〈藤原〉はい、そうです。
〈水沢〉非常に環境的な効果ですね。人間の目って固有色なのか、透明な場所を通過してやってきた別の場所からきた色なのか、実はよくわからないことは結構ありますよね。
〈藤原〉はい、あります。
〈水沢〉でもそれって不思議な表情になるから、印象に残るんですよね。小さな鉄の枠で、割った形で平行に詰めてあるガラスの作品ありますよね?あれも裏にそうした下地の金属があったりするんですか?
〈藤原〉あれはないです。
〈水沢〉あれはない。じゃあ、あれは壁の色が浮かんでいる。
〈藤原〉そうですね。はい。
〈水沢〉そうですか。その一つ一つの差はよっぽど比較しないと、わからないかもしれないね。
〈藤原〉そうですね。
〈水沢〉作った本人は記憶しているけど、鑑賞する人間はそこまでリアルに確認できるかっていうと、あんまりできないかもしれない。でも何かを感じるわけですよ。
〈水沢〉結構分厚いガラスが横に積み重なって、小口をこちら側に見せて。(グレーガラスの屏風作品を指して)あれはそういう作品ではない?
〈藤原〉あれは両方組み合わせていて、全部手でカットした細い短冊状の板を小口で出している面と、普通の板面と。意識したのは空間を開けるっていうので、何もない状態、透けているところも絶対作りたくて、3通りの手法を使っています。
〈水沢〉表情はそれぞれ全く違うんですね。後でまたゆっくり見てもらうと、だんだん沁みてくるんじゃないかって思います。
さっきからずっと話していることだけど、彼女の作品は環境と作品が一体化しているんですね。ヴェネチアの造船所みたいな場所と中之条の酒屋さんの蔵の空間と、いろんな空間の中で1回ごとに表情は変わっていくんですね。

〈水沢〉床に置いてある作品は...
〈藤原〉あれはガラスの棺です。
〈水沢〉ガラスの棺の中にガラスが入っている。
〈藤原〉そうです。2014年に逗子で初めて作って。
〈水沢〉あの作品は確か、逗子の徳冨蘆花。徳冨蘆花記念公園記念公園っていうのがあるんですね。行かれた人はあまりいないかもしれません。あそこの上には桜山の古墳があって。
〈藤原〉そうなんです。古墳もあるんです。
〈水沢〉そこに常設されているわけではないですが、時々文化イベントがある。そこに展示される一つとして...藤原さんのあの作品でしたっけ?
〈藤原〉その時と(今回)は違う作品です。その時は鉄で作りまして。数少ないんですけど屋外であの展示をしまして。光によって1日でどんどん表情が変わっていくっていう作品だったんですけど。
〈水沢〉そうですね。(ほかに)屋外で展示したことは?
〈藤原〉常陸國總社宮(茨城)っていうところで、神社の廊下で展示をしたんです。庭のような半屋外みたいな感じところで、初めて箱のシリーズを作ったんです。それが2018年。(野外展示は)その2回だと思いますよ。

作品が環境と対話する

〈水沢〉野外に持っていくと、よほど作品が自律性のある表現を持ってないと、時々負けちゃうっていうかね。自然の力に対話が成立しなくなっているってこともよくあるんですね。だから野外彫刻って息づく時と息づかない時とすごくありますよね。不思議です。
都市空間の中で本当に息づく野外彫刻って、むしろ例外と言ってもいいぐらいで、何にも知らずに通り過ぎてくっていうことが多いわけですね。
普段は目的意識で行動しているので、記憶の中に入らないんですね。でも一流のパブリックスペースの作品はちょっと気になって記憶に残っているんですよね。それは何かっていうと、やっぱりその作品がちゃんと環境と対話しているからなんですよ。今日は全く違うように見えるみたいな日があると、もうその作品のことを忘れなくなる。刻まれた彫刻は覚えているでしょ?
〈藤原〉覚えていますね。
〈水沢〉作者の名前とか作品名まで覚えるかはともかく、少なくとも見たという経験、その空間を経験したっていうのは、記憶の中に蘇るんですね。芸術作品か芸術作品でないかの差はそこですね。何かのきっかけで蘇るわけです。作品という風にきちんと評価できるかというのは関係なく、自分の中では大事なものになったっていう。
だから、ここの展示をするというのを聞いた時に、僕もそれなりにいろんな場所で(藤原さんの作品を)見てきたけど、ここでの表情がどうなるのかっていうのはとても気になっていたんですね。
展示(搬入)の途中に来て、順番とか距離感とかをいろいろお互いに話をして、ここで皆さんがこの空間に浸れるような空間になるといいよねって話をして、こういう配置になったんですけど。僕はずっといたわけじゃないから、照明とか細かかいところの調整はその後また何日もかけてされているんですね。展示もまさに対話だから。対話が作者と作品だけで終わっていたら世界が何も広がらないわけです。皆さんが来て、他の人たちも見る。そこで共有されていくっていうね。その時にこう...押し付けがましくない感じがいつでもするんですよ。

ニュートラルな素材と形

〈水沢〉人工的なもの、ガラスにしてもステンレスにしても鉄にしても全て人工のもので、いわゆる自然そのものを使うってことはほとんどないですよね。
〈藤原〉そうですね。人工のものと工業製品的なものが扱いやすいと思っていて。
〈水沢〉そういうものが自分にとって大事になったきっかけって何だったの?
〈藤原〉うーん、それこそ...自分にとってはあまり語りすぎないっていうか、フラットな...
〈水沢〉ニュートラルな?
〈藤原〉そう!ニュートラルな素材なので、すごく扱いやすい。鉄もほとんど幾何学で。有機的すぎる形よりもなるべくニュートラルな形の方が扱いやすい。その方が素材が語りかけてくるようなものを感じるので扱っています。
〈水沢〉そういう思いがしっかり固まったっていうのは、何かの影響ってあるって気がしますか?例えば、あの作家のあれを見たのがすごく大きな経験としてあるとか、そういうのは特にはない?
〈藤原〉好きな作家さんはたくさんいるんですけども、作り出してから出会った方もいらっしゃるので。
〈水沢〉影響とかそういうのはなく?
〈藤原〉そうですね。自分がこういう造形をやるとしたらってところです。
〈水沢〉ドイツにいたことも創作の環境としては大事だったと思うんですけど。
〈藤原〉あ、そうですね。ドイツは良かったですね。
〈水沢〉ドイツはいつどのぐらいいたの?
〈藤原〉2014年から毎年短期間では行っていたんですけれど、長くいたいなと思ってベルリンにレジデンスしたのが2018年の4月から6月まで。2018年に水沢先生に岩崎ミュージアム(横浜)で階段の作品をご覧いただいた後にベルリンに行きました。
〈水沢〉その岩崎ミュージアムの地下は、本当は展示スペースじゃなくて、劇場シアターですね。ゲーテ座っていう場所で舞台の方が主役の場所ですね。
〈藤原〉客席に階段の作品を。
〈水沢〉そうですね。その時の展示も本当に素晴らしかったんですよ。劇場空間の客席に螺旋形の階段を。舞台と繋がってましたっけ?
〈藤原〉繋がってはいないです。
〈水沢〉繋がってはいない、ステージに彫刻を置いたってものではない。だから本来の空間の目的に沿うようなことはしてなかったよね?
〈藤原〉はい。沿っていない感じ。
〈水沢〉螺旋形が地下の空間の中にせり上がっていく。
〈藤原〉そうです。割れたガラスの階段で、アルカディアというタイトルだったんですけど。
〈水沢〉あの巨大な作品って、今は材料としてはまだ残ってる?
〈藤原〉あれは...無いですね(笑)。自分が作品を作るときは設計図があるので、(設計図が)あれば大丈夫かなと思って。あと、あの時よりは少し金属加工を研究したので、もうちょっと分かって作れるからっていうのがあるので。
〈水沢〉そうなんだ。その時の空間が完全に地下なんですね。全く外光が入らない場所だったんです。作品をある意味、人工的な演出をするには一番向いているわけだよね。
〈藤原〉そうです。コントロールができる。

〈水沢〉ここ(本展)もそういうモードになっているんですか?いつもはカーテンの向こう側に光があることを少し感じるような場所なんだけど、それが完全遮断されてますね。一種の闇があって、(鑑賞者は)その中で自分たちの感覚をもう一度調整することができる。
さっきの逗子の公園のところに展示した完全野外と比べたら、これは正反対の展示をしているんですね。
〈藤原〉そうですね。正反対です。
〈水沢〉でもその幅の中で藤原さんは自分の作品を探求していて、同じモチーフと同じような手法で、ここでも展示し、逗子でも展示している。本当にいろんな表情を探っているんだっていうことが、今回の展示ではくっきり浮かび上がったんじゃないですかね。
〈藤原〉本当にありがたいことにアトリエがここにあるので、ずっと探れる機会、どこかな?って探し続けられた。先ほど水沢先生がおっしゃったように、今回は落ち着いてできた展覧会です。
〈水沢〉僕もそういう風に感じています。いつも作品を見るたびに、あなたの作品の中には、スタティックで静かで安定して収まってしまうっていう静的な性質という要素も持っているんだけど、でも実はすごく感覚が細かく調整されているので、表情は豊かなんですね。だから機械的な何か精密な機械を見ているっていうものとは違うんです。それは人工物を素材にしながら、人工的環境であろうと自然環境であろうと、いつでも丁寧に対話してみるっていうね。
それが藤原さんの基本的な創作姿勢で、今回まさに創作している場所でこの環境が準備できて、代表作を選んでいる。
でも、過去の作品をそのままっていう発想はないよね?リニューアルしている感覚がありません?
〈藤原〉あります。全く違う感覚。
〈水沢〉おそらく自分の中で思っていた表情とはまた違うものが見えてきたりもするんじゃない?
〈藤原〉そうですね。自分でも、同じ作品だけどなんか違うなって思ったりとか。例えば棺の作品は、昨年ART FACTORY城南島でオープンスタジオがありまして、1ヶ月かけて公開制作をさせていただいたんです。1階の広いスペースで制作をして、光の環境とかも(本展とは)だいぶ違うので、見え方が同じ作品でも全然違う。ただ昨年のオープンスタジオの公開制作をやっている時から今回の個展では「ああいうライティングにしたいな」って。上から光を当ててっていうのを思って制作しておりました。

~対談終了~

まだまだお話は尽きないところでしたが、予定時刻を過ぎたため対談を終了。その後のフリータイムでお客様も交えてお話の続きが行われました。
水沢氏の視点から見た作品の印象や作品が誕生した経緯など、貴重なお話をありがとうございました!

▶展覧会情報: 藤原京子「The Edge」

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