ART FACTORY城南島では、2026年8月15日(土)~9月13日(日)に遠藤保子 個展「ここでおきたことはたぶん説明できない」を開催。本展のアーティストであり、現在ART FACTORY城南島のスタジオを利用されている遠藤保子さんにインタビューを実施しました。

■遠藤保子 Yasko Y.E
東京都出身。武蔵野美術大学通信教育課程油絵学科在学中。2024年9月よりART FACTORY城南島を拠点に制作を行う。
油彩で描いた世界の上に、ダーマトグラフによる細い線の集積を重ねることで「境界線」を表現している。
主な個展に「NEVERLAND FANTASIA」(弘重ギャラリー、東京、2025)、「Invisible Coexistence 〜不確かに共存するものたち〜」(ギャラリーからーず、東京、2023)など。その他、ニューヨーク、プラハ、パリにて展示。
展覧会名に込めた思い
Q.展覧会名である、「ここでおきたことはたぶん説明できない」に込められた思いを教えてください。
A.「ここ」とはART FACTORY城南島のことです。今回の個展をやらせてもらえることになって、一番最初に決めたことが『ここで作り上げた作品のみを展示しよう』ということでした。2024年の 9月から今まで、ここで制作して生まれたものたちだけを展示しようっていうのがまず一つ大きくな決め事としてありました。
ここで私がやってきたことはもちろん制作なんですが、どっちかっていうとちょっと研究的なことが多くて。アトリエなんだけど、研究室みたいな。それはなんでかというと、集中して取り組める環境というのがまずありましたね。ここで制作をしているうちに徐々に育っていった疑問だったりとか、気持ちだったりとか、そういうのがいっぱいあって。
で、それがうまく説明できないんですよ。なんでそうなったのかとか、いつ生まれたのかとか、どういう思いでそこにたどり着いたのかとか。小さいきっかけはいっぱいあるんですけど、ここだからこそ起きた化学反応みたいなのがあって。その説明できない何か、をそのままタイトルに持ってきたんです。

ART FACTORY城南島での制作について
Q.ART FACTORY城南島に入居した経緯を教えてください。
A.もともと私スケボーをやってるんですけど、城南島海浜公園にスケボーパークがあったから、よく来てたんですね。それで城南島にART FACTORY城南島があるっていうのを知って。オープンスタジオを拝見したら、錚々たるたるメンバーがすごく密度の濃いオープンスタジオやってたんですよ。
それ以外にも、三島喜美代さんの作品、今はもうないんですけど、《20世紀の追憶》をキャットウォークの上から見るのが好きで。三島さんの作品をこんなに濃い空間で見られるのってほぼないじゃないですか。それで何回か来てて、めっちゃ憧れてたんですよ、ここに。
ここで制作したいって思ってたんですけど、基本(スタジオが)空かないんですよ。空いたタイミングで募集が出たのが 1部屋とか 2部屋とか。ずっと落選続きだったんですけど、2年前にようやく面接までこぎつけたというか、連絡をいただいて。その連絡が来たタイミングが武蔵美の授業の合間の休憩時間で。メール見て雄叫びあげちゃうくらい、すごい嬉しかったです。
Q.ART FACTORY城南島での制作期間中に、ご自身の作品はどのように変化してきましたか?
A.もちろん制作がメインではあるんですけど、一番やれてることは、集中してぼーっとできることですね。それまでは自宅アトリエとか、実家の一室で制作をさせてもらってたんですけど、良くも悪くも生活音って入るじゃないですか。そういうのって、平和ではあるんですけど、思考をこうちょいちょい点で区切られていくっていうか。でもここは、いい意味で自分のことしか考えないで済むっていうか。それぐらい集中できる環境なんです。
それで、制作を始めてみたら、むしろ思考や考察が一番進んで。何でこの色にしたんだろうとか、何でこういうものを描いているんだろうとか、何で私はこのサイズを選んだんだろうとか。それを突き詰めながらじっくり向き合えるっていう環境になったら、描きたいものを描くっていうよりも、内向的になってきて。内向的になればなるほど、描きたいものや出来上がっていくものがどんどん素直になっていったんです。それまではやっぱり少し外を意識してるっていうか、立ち位置を先に考えちゃってて。それも大事なことかもしれないんですけどね。それがここに来て作っていくうちにどんどんわがままになって、自分が一番気に入るものにどんどん特化していって、この作品は自分しか好きじゃないんじゃないか? ぐらいのものが出来上がり始めて。そこにたどり着いたのもつい最近なんですけどね。ようやくそこに来たっていうか。もう今、純度 100パーセント遠藤保子みたいな感じです。

使用している画材について
Q.ダーマトグラフやテンペラを使用されているのはなぜですか?
A.ダーマトグラフは、ネガフィルムや革製品に文字を書くときによく使用されるんですよ。で、なぜダーマトグラフかというと、今のところ描けるものがこれしかない。ダーマトグラフで描いているのは、私が「ホコリの巣」と呼んでいる細い線なんですけど、それは油絵具で書いたモチーフの上に乗っけてるんですよね。油絵具の上に、蜘蛛の糸みたいなやつを描くには、今のところこれしか見つかってないんです。
テンペラは卵黄テンペラも卵白テンペラも使います。これを使ったのも必要に迫られてのことだったんですが、大学の教授に教えていただいて出会いました。霧吹きで画面に吹き付けて乾かすと、コーティング剤が張られた状態になるので、ダーマトグラフの上に油絵具を重ねることができる。そうして、元は12色しかないダーマトグラフを何十色にもできるんです。試行錯誤ののちに、数百年前の技法を取り入れているって、なんか面白いですよね。

作品のモチーフについて
Q.「ドクロ」や「ホコリの巣」は遠藤さんの作品の必須モチーフともいえますが、これらを使われている理由を教えてください。
A.最初からドクロを書こうと思ったわけではなくて、人物を書きたいなと思った時に、対象者を限定したくなかったんです。その時に、ドクロって、詳しい人は人種も性別も年齢もわかっちゃうんですけど、普通はわからないじゃないですか。そのわからなさ加減が居心地がいいというか。人物を描いても、ある程度の表情とかは入れるんですけど、半分はドクロが透けるようにしておくと、本当にその表情なのか疑問が残るような。その想像の余地が残るような世界観を作りたくてよくドクロをモチーフとして使います。
ホコリの巣に関しては、これは境界線を表現しています。もともとのきっかけは、インディ・ジョーンズの映画に出てくる古い遺跡の端にある、カーテンみたいな蜘蛛の巣。あれを私が勝手にホコリの巣って呼び始めて。私の中であれを超えるたびに、異世界に行く感じがして、同じ世界にいるのに、こっから先は違う世界ですよみたいな。そこからだんだん研究していくうちに、人との距離感、温度差という意味での境界線としても使い始めたんです。
どんなものにも境界線があると思うと、見えてきてしまうんですよね。でも、それがあるから色々なものが混ざり合わずに共存できているんだなって思ってます。
本物のホコリの巣を見たのは10年以上前なんですけど、その時にすごく時間の経過を感じました。もともとは蜘蛛の巣だったところに、何年もホコリが蓄積していたという。その時に、異世界とか異次元って呼んでたものもちゃんと存在して、独自の時間軸とかで動いてるんだって思って、それがすごく面白くなっちゃって。で、よし、作っていこうみたいな。
本展で見ていただきたいポイント
Q.今回の個展で見ていただきたいポイントを教えてください。
A.入居した時から今までの変遷を一気に見ていただける空間なので、「あ、こいつちゃんと成長したんだな」ってわかってもらえるかなと思います。あとは、アトリエ再現コーナーを作るので、ちょっと恥ずかしいんですけど、普段何を考えているのか、面白がって見ていただけたらなと思います。
今後の展望や関心のあるテーマ
Q.今後の展望について、聞かせてください。
A.個展に合わせて、人物やドクロだけじゃなく”現象に対する境界線”というのを研究し始めました。私が見えてるこの境界線―ホコリの巣は、雨が降ったらどうなのかな? と。境界線自体が何属性でどこに存在してるのかなと思って。
なんかちょっと変なこと言い始めたんですけど、雨は実体があるけど、境界線って私が妄想で見てる世界なんですよ。でもその妄想で見てる世界が現実世界とぶつかった時にどうなるのかなって。それで今、自然現象に対する境界線を描き始めています。
それともう一つ、思い出とか自分の中の記憶を掘り下げていって、そこに境界線をぶつけたら、予想よりもすごい柔らかい儚い可愛らしい世界があって。思い出って美化されるってよく言うじゃないですか。それと同じで境界線も美化されたんです。今回その作品は展示しないんですけど、それをもうちょっとやってみようかなって思っています。
ご一読いただきありがとうございました!
ぜひ会場に足を運んでいただき、遠藤さんが表現する境界線とその世界観を直接ご体感ください。