児玉匡平 個展「紙と光庭」インタビュー

児玉匡平 個展「紙と光庭」インタビュー

ART FACTORY城南島では、2026年6月28日(日)~7月25日(土)に児玉匡平 個展「紙と光庭」を開催。本展のアーティストであり、現在ART FACTORY城南島のスタジオを利用されている児玉匡平さんにインタビューを実施しました。

■児玉匡平 Kyohei Kodama
1995年福岡県生まれ。2018年東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻 卒業。現在、東京を拠点に活動。主な個展に、「FRAGILE」(Gallery KINGYO,2024,東京)、「生活の縁で」(Gallery KINGYO,2022,東京)、「Skin」(Gallery KINGYO,2022,東京)、「ア パート ユニヴァース」(Gallery KINGYO,2019,東京)など。グループ展に「ビジュツ、行動せよ!」(東京都美術館,2023,東京)、「縄文コンテンポラリー展」(飛ノ台史跡公園博物館,2023,千葉)、「ヒロシマ2020」(東京都美術館,2020,東京)など。  

 

「紙と光庭」に込めた思い

Q. 今回の個展「紙と光庭」に込められた思いを教えていただきたいです。

A. 今回の展示は、傷ついたことのある人に向けて作品と空間を作ろうと思いました。自分自身、ART FACTORY城南島に来る前、辛い時期が続いていて、その時の経験が動機になっています。その時期、無理に明るいものを見ようと思うことができず、暗い作品だとか、過去現在の世界の暗い出来事を調べたりしていました。他者の暗い感情と共有共感することで、辛い時期を受け入れることができていました。その経験から、今回の作品は自分の内面のネガティブな思いを内包した空間を作り、傷ついたことのある人の誰かに引っかかればいいな、という思い展示を制作しました。

 

Q.他のギャラリーでも様々な個展をされてきたと思いますが、過去の展示と比較したときに、今回の展示はどう違いますか?

A.2つ違う点があって、まず環境が違いました。それまで自分の家で制作をしていたので、今回ARTFACTORY城南島でアトリエを持たせてもらって、かなりのびのびと制作することができました。もう一つが、テーマの部分で、ネガティブに振り切った展示にしようと思ったことです。前にずっと自分の個展を見てくれている方から、「作品が暗いね」と言われたことがあり、最初はそれが嫌だなと思ったんです。それが今回、自分の辛かった時期を経て作るとなった時に、この「暗い」みたいなことは、誰かと共感してプラスになるんじゃないかと思い、ネガティブに振り切って作ったところは今までの個展とは違う部分になります。

 

Q.「光庭」をモチーフに作品を制作された背景をお聞きしたいです。

A.「光庭」、光の庭って書いて「光庭」なんですけど自分が今空港内の複数の監視カメラで建物内を監視する業務をしていて、その中に「光庭」っていう空から一階まで吹き抜けた中庭を写す監視カメラがあるんですけど、「たまに屋上から飛び降りる人がいるからよく監視するように」みたいなことを言われる場所で。そこを見てた時に、自分も辛い時期のちょうど後ぐらいだったので、「なんでここを(自殺場所に)選んだんだろう」みたいなことを考えていて。実際にその「光庭」に行くと、静寂の空間というか、植物と差し込む自然光だけの、人が立ち入れない断絶された異空間のような場所で。そのイメージがひとつ《光庭》(2026)にはあります。他にも複数のイメージが何個か重なっています。


《光庭》2026年  Mixed media

 

児玉さんにとっての作品制作とは

Q.児玉さんにとって作品を制作するという行為は、ご自身の中でどういう位置づけになりますか?

A. あんまり考えたことがなかったんですけど、制作は自分の中で感情の発現というか。よく考えれば、昔から他人の悲しい気持ちとかが伝わりやすい体質というか、共感力というか。エンパスみたいに言うんですけど。自分の感情に対してもなんですけど、暗いニュースを見たりだとか、今と昔の社会の事件とか紛争を調べる中で、そのどうしようもない思いみたいな、感情に対しての自分なりの答えみたいなものが作品なのかなというふうに、今回の制作をとおして感じました。紙に絵の具を乗せたりだとか、インスタレーションは感情が始まりになっています。

 

Q.児玉さんの作品を拝見していく中で、何かに抗う気持ちや、祈りや願いを感じるのですが、ご自身の中でも、それらは重要なキーワードになっていますか?

A. 絵を描いているときに気をつけているのが、スピリチュアルになりすぎないようにしなきゃな、っていう風には思っていて。絵を描いていると、どうしても自分を追い込んだ状態になるというか。極限な状態になって、ずっと絵に対峙して描いていると、精神と近づきすぎるというか。怪しい信仰宗教とかでも、修行と称して自身を追い込ませて、幻覚を見せたりだとか、宇宙と繋がっているような錯覚を起こさせたりだとか、変性意識状態というんですけど、そういう感覚を味わせて信者を取り込むみたいなことがあるんです。絵を描いていると、ちょっとそれに近い状態になるというか、感情がそのまんま(画面に)現れているような感じにもなってくるので。ただ、本当はそういうことではなく、ただ素材に絵の具が乗っているだけで。

大学生の頃は、雨の中、外でキャンバスを寝かせて絵を描いたりとかしていて(※1)、画面に乗った雨水の流れみたいなのに合わせて描くみたいなことをやっていて。他にも、重力だったり、絵の具の乾きの痕跡だったり、そういうことを自分と他の見えない誰かが一緒に描いているみたいな感覚が大学生の頃にあったんです。でも、それって逆にすごい怖いことだなって思うようになってきていて。思考を外部に委ねすぎているというか、なので、今回の展示はかなり意識的に、重力だったり、乾きだったりみたいなのに対して、(それらに任せすぎることなく)自分で常に選択をすることで、そういうものに抗う、コントロールするみたいなことがあって。

 

※1《HOME》2015年 acrylic, oil on canvas

 

今回の展示のステートメントにも少し載せたんですけど、権威的なものへの抵抗みたいな部分は、個人よりも大きな存在の、宗教のストーリーやイデオロギー、為政者の思想の違いで人が他者を傷つける凄惨なことが起きていて、もしなにもなければ他人を傷つけようとは思わないのではと、思考を外部に預ける危うさ、権威的なものへの怖さ、自身で選択をする大切さみたいな意味合いで、素材とか(を選んでいる)。特にタイトルを全部《object》にしている理由は、(この絵画は)ただの物質だよみたいな、特別なものではないみたいな。そういう意味合いです。

 

Q.では、制作の過程で偶発的に生まれた描写が結果的に作品になっている、というイメージに近いですか?

A.おっしゃる通りで、テーマみたいなものは「ネガティブな想い」とは言ったんですけど、インスタレーションは絵画と違ってアイデアがあって展示空間で組み立てるもので、直接的にイメージ通りになるというか、ネガティブなままに現れやすいんですけど、絵画制作は自分の感情と実際に目の前にある紙っていう物質。それに絵の具を乗せての反応、対話じゃないですけど、気づいたり気づかされたりみたいな工程があるので、生まれてくる、立ち現れてくるものは、もっと意識的ではない自分自身の深層も含んだものになっています。

 

身近な物質や私的空間をモチーフに選ぶ理由

Q.紙やビニールなどの身近な物質や、私的な空間を取り入れて作品を制作されている理由を教えてください。

A. 紛争(などに問題意識がある)とか言いながら、自分の私的な空間を使っているのは、あくまで自分発信の感情で制作しているなっていうところがあって。感情っていうレールだったら、人類皆共通項というか。それは自分が今働いている空港で、いろんな国の人と働いていてもそう思うんです。なので、直接的なモチーフじゃなくても、自分の感情の世界から世界の出来事とのつながりを見ている部分があります。素材としてビニールとか身近な物質を使っているのは、普段歩いていて、「あ、これいいな」みたいな素材とか、気づいたものを素材にしていて。値段が高いから良いとか、美術向けの素材だから良いとか、そういう価値観ではなくて、もっと真っさらに素材として見ていいなと思ったものを選んでいるっていう感じになります。
 

Q.児玉さんは自身の感情や内面を内包した空間を提示されていますが、鑑賞者にとっても自身の内面と対話していくことは大事だと考えていますか?

A. 今回、傷ついた人に向けて展示を作ったんですけど、(鑑賞者に)当たることを考えて作るのってあまり健全じゃないなって思うところもあって。実際に今回、自分の感情を内包した空間を作って、傷ついている人の誰かが救われるかどうかはわからないんですけど、そういう誰かに響いたらいいなっていうふうに思っています。
 

扱うテーマを意識したきっかけ

Q.さきほどから何度か出ている戦争とか紛争、社会規範やステレオタイプなどへの問題意識はいつ頃生まれましたか?

A. 空港でずっと働いていて、宗教や言語、境遇も人生観も全然違ういろんな国の人たちと働くんですね。それでみんな感情という部分では同じというか。嬉しいとか面白いとか悲しいとか。その中で生活していて、(働いている同僚の方々には)それぞれに深刻な問題があって働きに来ていて、母国の家族に仕送りを送るために日本で働いている方だったり、ウクライナ戦争の影響で日本に逃れてきた女性の方だったり、あとはミャンマーで軍事クーデターが起きて軍事政権になった影響で日本に来ている方がいらっしゃったりして。それぞれの方の、自分とは全く違う、事情や境遇、人生観や宗教の話を仕事中や休みの日にもずっと聞いていて。ミャンマーの軍事政権に対しての東京駅周辺のデモ行進にもその同僚を通じて参加したりとかしていました(写真参照)。そういったことから始まって、世界の紛争や今までの歴史に関してより深く考え調べるようになりました。
 あとは作家活動をしながら社会にいると同じ日本人からは人生においての”常識的に”みたいな共通の見えないルールみたいなものを押し付けられる場面が結構あって、例えば”いつまでもそんなことせず正社員になって働いた方が良い”だとか、その人、本人の考えというより見えない大多数のルールに思考を委ねて悪気はなくしゃべってしまってしまっている人が多いというか。そういう空気も含めて生きづらい社会だと思う部分があって、自殺が多いこの日本社会の現状についてテーマにしていくのは意義があるように思います。

※2

Q.空港で働かれて長いですか?

A.そうですね。2020年くらいから働いているので、もう 6年ほどぐらいですね。

 

なぜ、紙なのか

Q.なぜ本展では多くの素材に紙を選ばれているのでしょうか?

A.キャンバスでもずっと絵を描いていたんですけど、キャンバスって割と支持体として丈夫でしっかりしすぎているというか、例えば画面の絵の具をスクレーパーで剥いだとしたら、結構しっかり取れて、目地とかには少し残るんですけど。紙はそれよりも結構繊細な素材というか、中に絵の具が染みたり、絵の具の水分を吸ってたわんだり、ちぎれたりするので、描くときの工程がかなり内包される素材だなって思いまして。今回の感情を乗せるみたいな部分では、その(紙の)方が乗りやすいみたいな。なので今回の紙の絵画の展示の仕方は、しっかり(伸ばして作品を)貼るとかじゃなくて、(紙の)たわみをそのまま残すようにしました。

 


《object》2026年 Mixed media

 

Q.先ほども話されていましたが、絵画作品すべて《object》というのは、普遍性を象徴するとか意味を持たせたくないという思いがありますか?

A.そうですね。意味を持たせたくなく、ただの物質にしたかったので、《object》という名前にしました。ただの紙という素材に絵の具が載っているだけという意味合いで、何かを表しているとかではなく、ただの物質に、特別じゃないものにしたかったです。
 


Q.搬入制作を拝見しましたが、筆ではなく手で描かれていたと思うんですけど、何か理由はありますか ?

A. 自分の素材の選び方もそうなんですけど、絵の具の代わりに壁面用の塗料とか使ったりしていて、全然アカデミックな絵画っぽい感じではないんです。手で描いているのは、筆の筆致があまり好きじゃないからっていうので手で描いていて。あとは、手の他にヘラや大きいスキージで描いたりとか、長い棒に絵の具を塗って画面の上で転がすみたいなこともしていて。(そうすると)こういう画面が残ったりしていて、あっちの白い作品(※2)とかも、表面の(紙の)皺に沿って白いの(塗料)が乗っていたりするんですけど、それは上から転がしたりとかしていて。筆の作為的な筆致よりかは、無作為な筆致にするために手でやったりだとか、物を使ったりしていますね。


※2 《object》2026年 Mixed media

 

本展の見どころと今後の展望


Q.今回の個展で見てほしいポイントと、今後の展望をお伺いしたいです。

A.絵のたわみだったり、破れだったりも含めた、絵画作品を見てほしいですね。あとは空間も、自分の感情を乗せた空間には仕上がったと思うので、共感をしてくれたら嬉しいなと思っております。
 今後の展望については、こんなにも大きな紙に描くということを今までやったことがなかったんですけど、今回初めてやってみてかなり手応えがあったので、この大きな紙に描くスタイルで今後も制作を重ねていきたいなという風に思っています。


《object》2026年 Mixed media

 

ご一読いただきありがとうございました!
ぜひ本インタビューを踏まえて、児玉さんの作り上げた空間や、作品1点1点の質感を体感しに来ていただけますと幸いです。

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